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デカップリングって何かご存知ですか

☆引き離しという意味ですが・・・

地球環境問題の解決には、新しい発想、取組が必要であり、そのため聞きなれない様々な新語が登場してきます。昨年10月の本コラムでカーボンオフセットという用語を紹介しましたが、今回は「デカップリング」(decoupling)について説明したいと思います。 カップリングとは、「結合、連結」という意味です。学生の間では、仲の良い男女学生に対して、「あの二人は似合いのカップルだね」なんて言います。その言葉の冒頭にラテン語からの借用語デ(de)が付くと、逆の意味になります。今回説明するデカップリングは、カップリングの逆で、「引き離し」という意味で使われています。

☆アメリカ経済とのデカップリングという使い方もあります

デカップリングは、最近、経済用語としても盛んに使われています。たとえば「世界経済のアメリカ経済からのデカップリングは可能か」といった使い方です。戦後の世界経済はアメリカ経済の影響を強く受けてきました。しかしこのところ、中国やインドなどアジア地域の経済力が増し、急速な発展を続けています。一方、アメリカ経済は停滞色を強め、株価もさえません。このような時代の変化を反映し、世界経済は、もはやアメリカ経済と切り離しても、やって行けるのではないかといった議論が出ており、デカップリングは、こんな文脈の中で使われています。

☆経済成長と化石燃料の引き離しという文脈で使われています

さて、環境分野では、デカップリングという言葉は、どのような場面で使われているのでしょうか。最近頻繁に使われているのが、「経済成長と化石燃料」のデカップリングです。 これまでの経済発展は、化石燃料依存型だったため、経済発展に伴って、どうしても石油などの化石燃料の消費が増えてしまいます。経済成長と化石燃料は、切っても切れない強い「結合」関係にあります。しかし、それが温暖化を加速させているのも事実です。 そこで、経済成長と化石燃料をデカップリングさせることが必要になります。脱化石燃料社会、低炭素社会は経済成長と化石燃料のデカップリングによって達成できる社会です。 それでは、経済成長と化石燃料のデカップリングは果たして可能なのでしょうか。

☆スウェーデンではデカップリングに成功しました

この点について、先日スウェーデンの友人から「スウェーデンでは、両者のデカップリングに成功した」という嬉しいニュースがメールで届きました。スウェーデン政府の発表によると、同国の経済成長は1990年比で06年は44%増になりましたが、同じ期間、温室効果ガスの排出量は8.7%も減少したそうです。つまりスウェーデンでは、化石燃料の消費を減らしながら、経済成長を続けることに成功したわけです。

☆日本はまだカップリングの構造から転換できていません

ほぼ、同じ期間(05年時点)、日本はどうだったかというと、経済成長は約15%増でしたが、化石燃料の消費も7.8%も増えてしまいました。日本の場合は、まだ両者のデカップリングに成功していないわけです。その結果、経済成長をすればどうしても、化石燃料の消費が増える構造から脱皮できないでいるわけです。

☆スウェーデンでは、政府、国民一丸となって脱化石燃料社会に挑戦

それでは、なぜスウェーデンでは経済成長と化石燃料とのデカップリングに成功したのでしょうか。最大の理由として、脱化石燃料社会に向けて、政府主導の下で、国民が一丸になって取り組んだことがあげられます。スウェーデン政府は、かつての石油危機の苦い経験から、国民の生活を支えるエネルギーは自国で調達しないと国の安全保障が脅かされてしまうという反省をしました。そこで、輸入に依存する石油に代えて、自国に豊富にある木質バイオマスを積極的に使うように国民に呼びかけ、様々な制度改革を実施しました。 冬が長く寒いスウェーデンでは、暖房およびお湯の需要がかなりの比重を占めます。

☆補助金や環境税など経済的手法をフルに活用

このため、まず、石油ストーブに代えて、薪(木質バイオマス)ストーブを普及させるため、消費者に魅力的な補助金制度をつくりました。次に石油などの化石燃料に対しては炭素税、硫黄税、エネルギー税などの環境税を実施しました。この結果、1kwh(キロワットアワー)のエネルギー代は、石油や天然ガスを使うと、木質バイオマスを使う場合と比べ四倍近く高くなりました。このように木質バイオマスの利用を促進させための手厚い制度設計によって、木質バイオマスの利用は急速に普及しました。中堅都市のベクショー市では、1980年当時、暖房用エネルギーは100%石油に依存していましたが、今日では5%以下で、逆に95%以上をバイオマスに依存しています。スウェーデン全体でも同じような傾向が見られます。

☆低公害車は混雑税の対象から除外

交通・輸送対策も、積極的に進めました。ガソリンや軽油の消費を抑制するために、植物性の燃料(バイオエタノール、バイオディーゼル)の利用を促すため、街中にスタンドを積極的に設置しました。また交通が混雑する都心部への車の乗り入れには混雑税を実施していますが、CO2の排出量が少ない低公害車は課税対象から除外しています。さらに空港や鉄道のターミナル駅では、低公害車のタクシーに対して客が拾いやすい専用の駐車場を設け、優遇しています。

☆日本も見習いたいものです

このほか、風力発電やバイオマス発電などの新エネルギーの普及にも力を入れています。 このように、国を挙げて脱化石燃料化に取り組んだ結果、世界に先駆けて経済成長と化石燃料のデカップリングが実現したわけです。日本も見習いたいものです。

2008年1月25日記

 
 
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