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環境立国づくりで不況を乗り切る

リーマン・ショックで世界の株価暴落

アメリカのサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題に端を発した金融危機は、9月15日のリーマン・ショック(米証券大手、リーマン・ブラザーズの倒産)が引き金になり、世界的な株価暴落を引き起こし、世界景気は悪化の一途をたどっています。日本も深刻な不況を覚悟せざるをえない状態です。

日本の株式時価総額は半減、実物経済へ悪影響

今回の場合、日本の経済実態は、それほど悪くはありませんが、アメリカに多くを輸出しているため、「アメリカが風邪を引けば、日本は肺炎になる」のたとえ通り、ニューヨークダウが下落すると、日経平均株価も、それに輪をかけたような勢いで暴落し、一年前と比べ、株式の時価総額は半値程度まで減少しています。株価下落の影響は実体経済にまで広がり、百貨店やスーパーの売り上げを激減させ、自動車や家電製品もさっぱり売れなくなっています。思い切った景気対策が必要になってきました。

グリーン投資を中心とする景気浮揚策が必要

景気回復のためには、新規需要を喚起することが一番ですが、成熟社会の日本では、かつてのように道路をどんどんつくるなどの公共事業では浮揚効果がほとんど見込めません。今の日本にとって、需要誘発効果が大きく、将来世代にも喜ばれる唯一の投資は、グリーン投資(環境保全に関連する投資)だと思います。今回の不況をむしろチャンスと受けとめ、グリーン投資を中心とする景気浮揚策を積極的に推進すべきです。短期的には景気浮揚効果が期待できるし、中長期的には環境に配慮した低炭素社会の構築にもつながります。

70年代初めに盛り上がった公害防止投資を参考に

実は同じような試みが70年代初めの日本ですでに経験済みです。重化学工業路線をひた走り、高度成長を成し遂げた日本は、一方で水俣病に象徴される深刻な公害を多発させてしまいました。73年に石油ショックが発生し、74年には戦後初めて日本はマイナス成長に陥りました。公害と不況の板ばさみの中で、政府は公害防止投資に取り組む企業に対し低利融資を積極的に行いました。その結果、74年から76年の3年間についてみると、民間企業の設備投資に占める公害防止投資の割合は、最大20%まで上昇し、金額ベースでは、毎年1兆円近くの公害防止投資が実施され、景気下支え役を果たしました。この結果、公害は急速に収束に向かいました。92年、ブラジルのリオで開かれた地球サミットの事務局長を務めた国連のモーリス・ストロング氏は「不況を公害防止投資で乗り切った世界最初の国」として日本を高く評価しています。


1.6%分の排出権購入代は、5年間で約1兆円


さて、今回の不況を乗り切るためには、省エネルギー、新エネルギーの技術革新を誘発、促進させるためのグリーン投資が効果的だと思います。日本は京都議定書で公約したように、温室効果ガスの排出量を08年から12年までの間に90年比で6%削減を実現しなければなりません。6%削減のうち、1.6%分は海外から排出権を購入することが認められています。1.6%分は、年間約2000万トンの排出量に当たります。5年間分だと約1億トンになります。CO21トン当たり5000円〜1万円として計算すると、5000億円〜1兆円の購入代を支払わねばなりません。ただ、日本の場合、05年度の温室効果ガスの排出量は90年比で8%を大きく上回って増えており、国内で削減できなかった分を外国から余分に購入すると、さらに購入代は膨らみ、2億トン以上、金額ベースでは2兆円以上のお金(税金)が必要になるかもしれません。

排出権よりも自前の省エネ、新エネ技術の開発急げ

そこで、発想を転換して、排出権購入資金を省エネ、新エネ投資に振り向け、技術革新によって、国内努力で温室効果ガスの排出削減を実現するようにしたらどうでしょうか。電気自動車、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、ヒートポンプ、さらに省エネ、新エネの開発に関連した様々な素材や部品の開発に資金が回れば、実用化寸前の技術群が目白押しだけに、一気にグリーン関連の潜在需要が爆発してくる可能性が大きいと思います。

13年以降の大幅削減に貢献

日本独自の技術開発に成功すれば、温室効果ガスの大幅削減が可能になります。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの調査によると、気候変動の安定のためには、世界の温室効果ガスの排出量を50年までに現在より半減させることが必要であり、そのためには20年までには90年比で20%〜25%程度の削減をしなければなりません。 国内の省エネ、新エネの技術開発を怠り、大量の不足分を海外から購入し続ければ、お金がいくらあっても足りません。毎年数兆円を越える巨額のお金が必要になるかも知れませんが、そのお金は所得移転の形で海外に流出してしまいます。国内技術を開発して削減を図れば、その心配はなくなります。

集中的、傾斜的に政府資金をグリーン投資に振り向けよ

京都議定書の約束期間が切れる13年以降の大幅な削減目標を視野に入れ、それに適応するためには、排出権を利用するよりも、自前技術の開発による削減を目指し、政府資金を思い切って投入した方が長い目で見て日本の国益になります。物資不足だった戦後の日本は、限られた資金を石炭と鉄の生産に集中的に振り向け、その後の経済発展に結び付けました。この方法を傾斜生産方式と呼んでいます。同じような発想で、省エネ、新エネの技術開発に集中的、傾斜的に政府資金を投入することで、今回の不況を乗り切り、同時に環境立国へ向け大きく前進することが可能になるわけで、日本にとって一石二鳥のチャンスといえるでしょう。

2008年10月20日記

 
 
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