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地球温暖化の時代は終わった! そして灼熱化の時代が迫っている

温暖化にはメリットもあるのでは?

環境関連の授業やゼミで、「地球温暖化は脅威か」と学生に問うと、一部の学生から「温暖化はなぜ悪いのですか、結構ではないですか」といった逆質問が返ってくることがあります。先日も、北海道出身の学生から、「温暖化が進み、本州並みの気候になれば、農地の利用も広がり、雪に閉ざされず、戸外で通年労働が可能になるので、北海道の活性化につながるのではないでしょうか」、という質問がありました。

地域によって影響が異なることは確かだが・・・

温暖化の影響は、地域によって大きく異なります。確かに北海道の場合、温暖化の進行テンポが緩やかな場合は、デメリットよりもメリットの方大きくなる場合も考えられるので、この学生の指摘も無理からぬことです。しかし、一定以上の速度で、気温が上昇し続け、たとえば100年前と比べ、3℃以上も上がると、今度はデメリットの方が圧倒的に大きくなるので、メリットは一時的な現象で終わってしまい、長期的にはマイナス効果の方が目立ってきます。

温暖化という言葉には切迫感が欠けている

急速に進む地球表面温度の上昇を、「温暖化」という表現で説明すると、確かに誤解を招く恐れがあります。温暖化という語感には、元々「好ましい」という意味合いが強いため、地球温暖化を「好ましい現象」と受け止める向きが案外多いように思います。このため、温暖化の危機といっても、切迫感があまりありません。

温度上昇プロセスを4段階に分けて説明

そこで、私は、一案を思い付き、地表温度の上昇プロセスを温暖化→高温化→高熱化→灼熱化の4段階に分けて説明することにしました。(以下は、国立環境研究所などが開発した地球シミュレーターを参考にしています)


第一段階 地球温暖化の時代


この時代は2000年頃までで終わりました。過去100年の間に、地球表面の温度は平均0・7℃前後上昇しました。人間の正常な体温を36・5℃とすれば、微熱の37℃程度です。ちょっと風邪を引く、寝不足で体がだるいといった感じですが、この程度なら日常生活にそれほど影響はありません。

第二段階 地球高温化の時代

2000年頃から2020年頃まで。2〇年には、100年前と比べ、温度は1・5℃を超える上昇を示し、2℃上昇に近づきます。この段階になると水温上昇による水質悪化、干ばつの増加、水不足、穀物生産の減少、サンゴ礁の破壊、グリーンランドの氷床の融解が始まります。人間の体温では38℃前後。

第三段階 地球高熱化の時代

2020年頃から2050年頃まで。地表の温度が2℃を超え、2050年頃には20世紀初頭より3℃近く上昇します。北極だけではなく、西南極の氷床が融け始め、海面水位が上昇するため、標高の低い沿岸地域が洪水や高潮の被害を受けます。バングラデッシュなどの南アジアや東南アジアを中心に世界で2600万人が被害を受けるとの予測もあります。気温の上昇によって、蚊の生息地域が広がり、マラリアをはじめ、西ナイル熱やデング熱などの感染症が猛威を振るうようになります。生態系が温度上昇の変化に対応できず、多くの種が絶滅の危機に直面し、飢餓、水不足はますます深刻化してきます。日本や米国では台風、ハリケーンが凶暴化してきます。この段階になると、人間の生存条件は大きく損なわれてしまいます。人間の体温でいえば、39℃前後。高熱にうなされ、起きていることが難しい状態です。

第四段階 地球灼熱化の時代

今世紀後半の半世紀がこの時代です。2070年には4℃を突破し、2100年には5℃上昇に達します。この段階になると、海洋大循環が停止してしまう可能性が強まります。約2000年周期で地球を一周する海流の流れがあります。特にメキシコ湾流(暖流)は大西洋を北上しながら横断し、イギリスの沖を通って、北極海に達し、そこで一気に海底に沈み込みます。温暖化による氷床の融解や雨量の増加などの影響で、塩分濃度の高いメキシコ湾流が薄められ、北極海で海底に沈み込めなくなると、海洋大循環が停止し、欧州全域が急速に寒冷化してしまう危険性が強まります。東京、上海、ロンドン、ニューヨークなどの世界の主要都市が海面水位の上昇の脅威にさらされます。生態系の大多数が現状維持を続けられなくなります。台風、森林火災、干ばつ、洪水、熱波が日常的に発生し、水、食糧不足が一段と深刻化してきます。この段階になると、気候変動を人為的に制御することが不可能になります。地球全体が灼熱地獄の様相を呈し、死亡者を含め人類の半分以上の生命が脅かされる危険が強まります。人間の体温でいえば、40℃を超え、生死をさまよう危険な状態です。

2050年を越えると気候変動を制御できなくなる

地球シミュレーターの予測は、07年にノーベル平和賞を受賞した国連の気候変動研究機関、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告の最悪のケース(今世紀末に6・4℃上昇を見込む)に近いものですが、可能性としては最も起こり得る姿です。 「2050年といえば、君たちの多くはまだ生きており、君たちの子供たちが社会の担い手になっています。彼らにそんな地獄のような地球を引き継ぐことができますか。人為的制御が可能な2050年までに思い切った対策が必要です」

残された時間はあまりない

温暖化対策の必要性をこんな言い方で説明すると、これまで「他人事」と思ってきた学生の態度に明らかな変化が見られるようになりました。灼熱化の悪夢を回避するために残された時間はあまりありません。一人一人の行動あるのみです。

2008年12月21日記

 
 
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