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食料安全保障のため、食料自給率をもっと高めよう

☆農薬入り中国製ギョーザにショックが走る

食料安全保障とは、食料供給に影響を及ぼす様々な不測の事態に的確に対処することです。日本ではこの食料安全保障がいま、大きく揺さぶられています。 最近、最も注目を集めたのは1月下旬に発覚した農薬入り中国製ギョーザです。主に殺虫のために使用される有機リン系の農薬、メタミドホスが混入したギョーザを食べて10人が激しい中毒症状に見舞われたというニュースに多くの国民がショックを受けました。中国製の食品は価格が安いため、野菜類や加工品などを含めスーパーの食品売り場などで、大量に販売されています。しかし今回の事件がきっかけになって、価格よりも安心して食べられる国産の食料を求める消費者が急増しています。原産地を調べ、中国産と書いてあると購入しない消費者が目立ち、スーパーなどは、対応に苦慮しているようです。

☆食料自給率39%、先進国で最低の水準

日本の場合、食料の多くを外国から輸入しています。先進工業国の食料自給率(カロリーベース)をみると、食料生産国であるオーストラリア、アメリカ、フランスなどは100%を越えていますが、日本と似ている食料輸入国のドイツが97%、イギリスが71%と自給率はかなり高くなっています。これに対し、日本の自給率は40%と目立って低く、06年度の最新の統計では39%まで低下しています。先進国の中で最も低いばかりではなく、国別比較では178か国中、129位とその低さが際立っています。

☆食料の安定確保に不安

昭和40年(1965年)当時の自給率73%と比べると、その低下振りが分かります。 日本の自給率が先進国の中で最も低いのは、米以外の食料の自由化を急速に進めたためです。ドイツやイギリスなどの食料輸入国は、「自給率の低下は、食料安全保障上問題がある」との考え方から、補助金などを活用して国内農業の保護に力を入れてきました。 その結果、日本では米以外の食料品では価格の安い外国産の輸入が増えて輸入比率が急速に高まりました。輸入比率が高まると、供給国の都合で振り回され、食料品の安定確保が脅かされる危険があります。

☆価格高騰で輸入依存の畜産農家に危機感

たとえば、家畜用の飼料として使われるトウモロコシの約90%、また納豆などの原料になる大豆の75%以上がアメリカから輸入されています。そのアメリカで、ガソリンに代わる燃料としてトウモロコシを原料にしたバイオ燃料の需要が急増したため、トウモロコシの価格が暴騰しています。そのあおりを受けて、経営破たんに追い込まれる日本の畜産農家が急増しています。今後温暖化による気候変動で、食料生産国に異常事態が起これば、食料の輸入比率の高い日本は、食料の安定確保が難しくなることが十分予想されます。

☆2015年に自給率45%を目指す

食料の安全保障のためにも、食料の自給比率をもっと高めていくことが求められています。農水省では、地産地消の奨励や学校給食で米飯推進策などを進め、二〇一五年までに自給率を現在の40%から45%まで引き上げる目標を掲げていますが、現実は、足元の自給率がさらに落ち込むなど成果が上がっていません。理想をいえば、自給率は70%以上を目指すべきでしょう。

☆フードマイレージとは、食料の輸送距離のことです

食料自給率をもっと引き上げなければ将来、日本人の安定的な食料確保に支障が起こってくることが予想されますが、ここに思わぬ援軍が登場してきました。フードマイレージ(採れた所から食べる所までの輸送距離)削減運動です。この運動は、ガソリンなどの化石燃料を大量に使って外国から食料を輸入するよりも、国産食料を使えば、CO2の発生を大幅に削減できる、という運動です。フードマイレージ削減運動を積極的に展開しているグループの一つに市民団体の「大地を守る会」があります。もともと大地の会は、食の安全のため有機農業を推奨しており、有機農業生産者と消費者をつなぐ運動をしてきた市民団体です。

☆1トンの食料を1km輸送する場合のCO2排出量が基準

大地の会は、食料の輸送距離が短くなればなるほど、CO2の排出量が少なくなるため、地産地消こそ理想だと考えています。  フードマイレージは、@食料の輸送距離(km)×A重量(t)×B輸送手段のCO2排出係数(g/t・km)で計算します。CO2排出係数とは、1トンの食料を一km輸送する時に排出するCO2の排出量(g)です。排出係数は、01年に国土交通省が作成したものがあります。それによると、CO2の排出量は、貨車21gに対し飛行機は約70倍の1510gと断然大きくなります。

☆3人家族が国産食材に切り換えると、年間290kgのCO2削減が可能

この計算方式で、大地の会が試算したところ、食パン1斤をアメリカ・モンタナ州から輸送した場合、CO2の排出量は144.9gだが、北海道からの輸送では34.7gで済み、差し引きCO2の排出量を110.2g削減できることになります。同様に豆腐1丁の場合も、アメリカから輸入するよりも、国内で調達すれば約160gのCO2が削減できます。大地の会の試算によると、3人家族がすべて国産食材に切り換えた場合、1年間で290kgのCO2が削減できるそうです。 温暖化対策として始まったフードマイレージ削減運動は、地産地消による地域農業振興に役立ち、食料の自給率向上にも追い風になりそうです。

2008年2月14日記

 
 
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