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大気汚染が心配な北京オリンピック

☆最近に至るほど大気汚染が悪化

チベット問題などで世界的な関心を集めた北京オリンピックは、8月8日から始まります。北京市が誘致に成功した2000年7月から数えると、8年近くの歳月をかけて市内整備などに取り組んできたわけですが、気になるのはやはり大気汚染問題です。 筆者は90年代初めに北京を訪れて以来、数年に一度は訪問する機会がありましたが、最近に至るほど大気汚染が悪化していることを肌で感じてきました。

☆90年代初頭は、青空が澄んで見えたが・・・

90年代初め頃の北京空港は設備も貧弱で古臭いローカル空港といった雰囲気でした。北京市内へ向かう高速道路もありませんでした。田舎道のような狭くて曲がりくねった悪路を車で一時間近くもかかった記憶があります。しかし空気はきれいで、青空が澄んで見えました。

☆奇跡の経済成長で、太陽がスモッグで覆われてしまった

90年代後半以降になると、中国は、「奇跡の経済成長」を遂げ、それに伴い、立派な高速度道路がつくられ、空港も国際空港として先進工業国のそれと比べ遜色ない堂々とした姿に変身しました。しかし空港に降り立つと、途端に刺激臭の強い排ガスの臭いが鼻を突き、晴天の昼間にもかかわらず、太陽がスモッグで覆われ、ぼんやりとしか見えないようになりました。

☆自転車に代わって自動車が市内にひしめく

かつては朝夕、大挙して自転車で通勤、帰宅する北京市民の姿が印象的でしたが、今日では市内に自動車が溢れ、中心部の道路は、終日激しい渋滞に見舞われ、自動車が吐き出す排ガスに耐えられず、マスク姿の市民が目立ってきました。体力の限界に挑むオリンピックを成功させるためには、何よりも大気汚染対策が必要だというのが率直な筆者の印象でした。

☆国際オリンピック委、「世界記録は生れない」と懸念も

こんな北京の大気事情を心配した国際オリンピック委員会(IOC)の医事委員会は、北京市環境保護局から昨年8月の気象条件や浮遊粒子物質などのデーターを提供してもらい、世界保険機関(WHO)の基準に照らして分析しました。今年3月にその調査結果が明らかになりましたが、それによると、マラソンなど屋外で一時間以上運動する耐久競技には、「いくらかのリスクがありうる」と分析し、当日の大気の質や気象条件によっては、競技日時の変更も必要になるかもしれないと指摘しています。 また新聞報道によると、リュンクビスト医事委員長は「競技によっては理想的な条件では行われず、我々が北京で世界記録が破られるのを見ることはないかもしれない。しかし五輪は記録よりも、五輪精神の下で競うものだ」と指摘しています。

☆男子マラソン世界記録保持者、ゲブレシラシエ、欠場表明

北京の大気汚染をめぐっては、男子マラソン世界記録保持者のゲブレシラシエ(エチオピア)が、呼吸器への悪影響を懸念して欠場を表明しています。欧米の選手団の中には、たとえば、イギリスの水泳代表選手団のようにぎりぎりまで大阪で調整し、直前に北京に乗り込む戦略のところが増えているそうです。具体的には20カ国近くの欧米の選手団が日本での調整を準備中で、すでに10カ国近くの選手団が練習場所を確保済みとの報道もあります。オーストラリアのオリンピック委員会は選手に対して、ぎりぎりまで現地入りを避けるようにアドバイスをしている、というニュースも伝えられています。

☆天然ガス車など低公害車の普及に意欲的な北京

これに対し、中国政府高官は、「大部分の選手は、北京の空気に満足しており、多くの対策を取っており、空気は開催日までにさらによくなる」と反論しています。 確かに、オリンピック開催決定後、中国の環境改善への取り組みは積極化しています。たとえば北京市は01年に自動車環境保護標識管理制度(エコマーク管理制度)を導入し、06年までに累積で燃費効率の悪いタクシー5万台と路線バス1万台の更新・廃棄を実施しました。路線バスも4000台以上が天然ガス車に切り替わりました。さらにオリンピック開催日までに、燃料電池バスや低排出ガスの路線バスを1000台新たに増やす計画も明らかにしています。

☆火力発電所などの排ガス規制大幅強化

北京市の自動車所有台数は、約300万台といわれていますが、オリンピック開催中は、市内を走る台数を必要最小限に絞込み、地下鉄や路線バスの利用を奨励する計画です。選手団の送迎には、50台の燃料電池バスを用意するそうです。 自動車以外の大気汚染対策としては、周辺の火力発電所や工場、石炭ボイラーなどの排ガス規制を大幅に強化しています。

☆北京市、大気汚染状況は改善に向かっていると発表

このような努力の結果、北京市の大気汚染状況はひところと比べ大幅に改善されている、という数字を北京市は公表しています。これに対しては、早速、アメリカの研究機関が「北京市が大気汚染の少ないところに観測点を移して、改善を強調している疑いがある」と噛みつくなど、本当のところはよくわかりません。 筆者は3月中旬、二週間ほど上海に出張しましたが、今回は北京まで足を伸ばせませんでした。このため直近の北京の大気事情は知りませんが、北京から上海にやってきた友人によると、相変わらず、市内は自動車で溢れ、スモッグで太陽は見えず、大気汚染は一年前と変わっていないように思えたと言っていました。

☆大気汚染が改善され、世界記録の続出を期待

これまで環境よりも経済優先でやってきた中国は、大気汚染だけではなく水質汚濁、土壌汚染など様々な公害を発生させています。北京オリンピックを機会に、中国が本気で環境対策に取り組み始めたことは結構なことです。開催日までに北京の大気がさらに改善され、世界記録が続々と生れることを期待したいものです。

2008年5月13日記

 
 
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