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原油高騰は低炭素社会へ移行するチャンスだ

☆第3次石油危機との見方も登場

原油価格が急騰しています。1年前には1バレル当たり60ドル前後で推移していましたが、今では140ドル前後に跳ね上がっています。1年間で倍以上、10年前と比べると、約13倍も上昇しています。このため、73年から74年にかけての第1次石油危機、78年から80年頃の第2次石油危機に続く第3次石油危機が始まったのではないかとする見方もあります。

☆中国、インド、ブラジル、ロシアなどの新興国の発展で石油需要が拡大

もっとも第1次および第2次危機の場合は、武力紛争を含む不安定な中東情勢が引き金だったのに対し、今回は、グローバル経済下での様々な政治・経済・社会要因が複雑に絡み合っています。しかも価格上昇が経済全般に与える影響もかつてなく深刻です。この一年の原油価格の上昇については、いくつかの原因が考えられます。原油価格は市場の需給関係によって決まります。需要面では、第一に中国、インド、ブラジル、ロシアなどの新興国の目覚しい経済発展で原油の需要が急増しています。

☆原油高騰の3、4割が投機資金によるという試算・・・

第2に投機的資金の流入の影響があります。経済のグローバル化が進む中で、投機資金のボリュームも巨大化しています。これまで世界の株式市場に向かっていた投機資金のかなりの部分が、アメリカで起こったサブプライムローン危機を契機に、原油、金、穀物などの商品に向かっています。最近発表された08年版通商白書は「原油などの商品価格上昇の3,4割は投機資金による」と試算しています。

☆OPECは、供給不足が原因ではないと反論

一方、供給面はどうでしょうか。原油の中心的な供給先である中東の政治情勢は、イランの核開発問題などを巡って引き続き不安定な状態にありますが、OPECは、「価格上昇は、投機資金の影響が大きく、供給不足が原因ではない」と指摘しています。万一この地域で、過去と同様の武力紛争が起これば、需給関係が一気に逼迫する不安はぬぐいきれません。
このように見てくると、原油の供給が横ばいなのに、仮需を含めた需要が急拡大しているうえ、中東の不安定な政治情勢が重なり、原油価格の異常な上昇を招いているとみてよいでしょう。


☆高騰の影響で、アメリカでは小型車へ需要がシフト


原油価格の高騰は、様々な分野に影響を与えています。アメリカの自動車市場では、ガソリンを大量に消費する大型車が敬遠され、燃費効率のよい小型車へ需要がシフトしています。日本では、重油に依存してきたイカ漁やマグロ漁業が大きな打撃を受けています。たとえば、マグロ漁船の燃料のA重油の日本国内の販売価格は、1キロリットル当たり9万円台に達しており、5年前の3倍になっています。

☆日本では、全国20万隻の漁船が出漁取りやめで抗議

7月中旬には、全国20万隻の漁船が燃料費高騰の苦境を訴え、一斉に出漁を取りやめ、「燃料高騰が今後も続けば、廃業に追い込まれる」として、政府に対策を求めました。
航空燃料の高騰の影響で、この夏は海外旅行を手控える旅行客が目立ちました。高速道路もガソリン価格の高騰で、渋滞が緩和されているそうです。私たちの日常生活に欠かせない電気料金も今秋には値上げが予想されます。このように原油価格の高騰が引き起こす経済活動や日常生活に与える様々な影響、変化を私たちはどのように受け止めたらよいのでしょうか。

☆石油高騰は高率の炭素税実施と同じような痛みと効果

まず、誰もが感ずることは、私たちの豊かな生活がいかに石油に多くを依存していたかを改めて認識させられたことです。しかしこのような石油依存型の便利で豊かな生活が地球温暖化を引き起こし、気候変動を凶暴化させていることも忘れてはなりません。私たちが低炭素社会を目指すのは、このような石油依存型の経済社会と決別するためです。石油価格の高騰は、高率の炭素税を実施した時と同じような痛み、効果を経済社会に与えています。炭素税導入の最大の目的は、石油依存型のエネルギー構成、産業構造、消費者行動を転換させることです。かなりのハードランデング(痛みを伴う着陸)を覚悟しなければなりません。

☆マイカー利用者にも変化の兆しが・・・

私たちは、この際、原油価格の高騰を低炭素社会へ向かうためのチャンスと捉えて対策を考えてみてはいかがでしょうか。ガソリン価格の高騰で、高速道路などの車の混雑具合が大分緩和されたことは結構なことだと思います。不要な自動車が1割程度減るだけで、走行状態は大幅に改善することが分かります。マイカー利用者の一部も、自転車や地下鉄、バスなどの利用を心がけるようになってきたそうで、ガソリン高騰は、消費者行動にも明らかに影響を与えてきています。

☆燃費高率の良い漁船に支援

一方、たとえば、重油価格の高騰で窮地に立たされている漁業を救うための対策としては、これまでのように、価格高騰分の一部ないし全額を補助金として支給する方法はやめる必要があります。その代わりに、燃費効率の良いエンジンに切り替える漁船とかバイオエネルギーや燃料電池などに切り替える漁船に補助金を優先的に支給する。イカ漁に欠かせない「集魚灯」の燃料も、省エネ型の発効ダイオードなどを使った「集魚灯」へ切り替えるための資金支援を強化させるなどです。

☆低公害車購入を支援し、ガソリン離れを促す

一方、自動車でいえば、燃費効率の良い小型車やハイブリッド車、電気自動車などに対する優遇対策を大幅に強化し、ガソリン離れを促すなどが必要です。炭素税導入の最大の目的は、石油などの化石燃料の価格を高騰させ、石油依存型のエネルギー構成、産業構造、消費行動を転換させることにあります。そのための絶好のチャンスです。

☆低炭素社会へ近づくための新しい発想、大胆な政策展開が求められている

これだけ原油価格が高騰すれば電気料金の値上げも避けられないように思います。消費者は、値上げに対しては日常的な省エネ努力を一段と求められるようになります。国としても太陽光発電や風力発電などの新エネルギーの開発、普及のための支援策を強化させるべきです。低炭素社会にソフトランデング(軟着陸)するためには、今度の原油高騰をひとつの好機として受け止め、その対策も従来の延長線上の対策ではなく、石油依存型のエネルギー構成、産業構造、消費者行動を低炭素社会へ近づけるための新しい発想と大胆な政策展開が求められています。

2008年8月10日記

 
 
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