むき出しの欲望を抑制した生活が求められる
何事も程々で、満足しなければならない時代がやってきそうです。地球の大きさに対して人間の存在が小さかった時代は、地球資源を自由に使うことが許されましたが、人間の存在が大きくなり過ぎた現在、それが許されなくなってきました。
化石燃料に過剰に依存した結果、地球温暖化が急速に進み始めたし、熱帯林の乱伐によって、生物多様性の宝庫である熱帯の生態系が崩壊の危機に直面しています。
私たちの食生活を豊かにしてくれる魚介類も、過剰漁獲によってその数が急速に減少しています。有限な地球と共存していくためには、むき出しの欲望を抑制し、日常生活の中に、「程々の我慢」を組み込んだ生活を定着させなければならない時代が迫ってきているように思います。
今年の大西洋産クロマグロの漁獲枠前年比4割減
そんな思いを改めて強く感じたのがクロマグロの漁獲規制です。大西洋と地中海のマグロ漁を管理する国際委員会(大西洋まぐろ類保存国際協会)は昨年11月中旬、ブラジルで開いた年次総会で、最高級のマグロとして人気が高いクロマグロの今年(10年)の漁獲枠を前年比4割減の1万3500トンで合意しました。当初予定されていた漁獲枠は、1万9950トンでしたが、それを大幅に下回ることになりました。
クロマグロは、別名本マグロとも言われ、マグロの中でも、トロ部分が多く、すしネタや刺身に利用される最高級の食材です。日本は世界のクロマグロの8割を消費する国(年間約4万トン)ですが、その6割が大西洋・地中海産といわれています。
生息数はピーク時の30万トンから8万トンへ急減、蓄養ビジネスが減少に拍車
ところが、これらの海域のクロマグロが乱獲によってこの数年急減しています。たとえば、大西洋におけるクロマグロの生息数は、ピーク時の30万トンから8万トン前後まで急減しているそうです。このため、欧州の一部の国から輸出入の全面禁止を求める声が強まっています。生息数減少の最大の理由は、なんといっても過剰漁獲です。その中でも特に問題視されているのが、地中海での「蓄養」です。巻き網漁で小型のマグロ(幼魚)を大量に獲り、いけすに移し、大量にエサを与え、脂身(トロ)を増やして出荷します。
日本はこの蓄養マグロの大部分を輸入しており、高級食材だったトロをスーパーや回転ズシでも楽しめるようになりました。最近では、中国などの新興国でも所得水準の向上に伴って、クロマグロの需要は拡大しています。拡大する需要に対応するため、小さいうちにとってしまう蓄養がクロマグロの減少に拍車をかけているのが現状です。
モナコ、ワシントン条約の対象にクロマグロを提案
クロマグロの絶滅を危惧する地中海の小国モナコは、環境保護団体の支援を受け、大西洋と地中海のクロマグロの輸出入を全面禁止するように各国に呼びかけています。同国は昨年10月に絶滅の恐れのある動植物の取引を規制するワシントン条約の対象にクロマグロを加えるべきだと同条約事務局に提案しました。フランスやアメリカなどモナコ提案に好意的な国も少なくありません。今年の漁獲枠、前年比4割の大幅削減は、実は、日本がEUと共同提案したものです。「ワシントン条約の対象になれば、実質的に操業が不可能になる、それだけは避けたい」」とする日本側の思惑が強く働いていました。
規制の効果がなければ、1年間の休漁も覚悟する
この会合では、11年以降、クロマグロの資源回復が困難と認められた場合は、1年間の休漁に入ることも決まりました。これも、日本側が提案したもので、なんとしても、全面禁漁を避けたいとする危機感の表れといえるでしょう。
EU加盟国の中には、フランスなどのようにモナコ提案に賛成の国もあり、EUは今回日本と共同で4割削減を提案しましたが、加盟国の足並みは必ずしもそろっているわけではありません。
モナコ提案は3分の2以上の賛成で承認へ
いずれにしても、3月に開かれるワシントン条約締約国会議でモナコ提案が3分の2以上の賛成を得れば、日本への輸入は全面的に禁止されてしまいます。日本の立場としては、3分の1以上の票を得て、提案を否決に持ち込むしかありませんが、とても楽観できる情勢ではないようです。
もちろん、これらの地域のクロマグロの輸入が禁止されれば、クロマグロの供給が半減し、価格の上昇も避けられなくなるでしょう。これまでのようにトロを楽しむ機会も急減してしまいます。漁獲量が減少しているのはクロマグロだけではありません。ミナミマグロ、メバチ、キハダなどマグロ類全体におよんでおり、漁獲規制が強化されています。
完全養殖に成功する水産会社も登場
漁獲規制が強まる中で、日本の水産会社の中には、「完全養殖」の事業化に取り組み、成功する企業も登場しています。たとえば、マルハニチロは、卵を人口孵化して成魚まで育てる手法を確立し、13年から出荷する計画です。地中海での蓄養は、幼魚を大量に捕獲するため、過剰漁獲の原因になっています。しかし同社の場合は、卵を人工孵化させて育てるため、計画的な生産が可能です。
自然資源の再生メカニズムを壊すな
しかし、漁獲量減少の背景には、なんといっても、過剰漁獲が指摘できます。マグロの再生産能力を超えて獲り続ければ、絶対量が減少することは当然です。かつてクジラの過剰漁獲で起こったことが、今、クロマグロについても起こっているわけです。有限な地球を無視して、資源を過剰に消費し続ければ、資源は枯渇してしまいます。
冒頭で指摘したように、私たちはむき出しの欲望を抑えて、自然資源の再生メカニズムを損なうような行為は慎み、程々で満足するようなライフスタイルを早急に築き上げ、定着させていかなければならない時代を迎えているのではないでしょうか。
2009年11月25日記