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ミツバチ大量失踪の謎を考える
生態系壊す人間活動に原因か

ミツバチ不足で果実農家に深刻な影響

この数年、ミツバチの世界に異変が起こっています。ミツバチの大量失踪、大量死です。ミツバチがいなくなると、ミツバチに受粉をさせていた、果実農家に深刻な影響がでてきます。しかも、この現象は、工業先進国が多い北半球で集中的に発生しています。
最近、出版された「ハチはなぜ大量死したのか」(ローワン・ジェイコブセン著、文藝春秋)を読むと、アメリカでのミツバチの大量死の様子がルポタッチで克明に描かれており、思わず背筋が寒くなりました。

北半球から4分の1のハチが消えた!

同書の序章は、こんな文章から始まります。「巣箱という巣箱を開けても働きバチはいない。残されたのは女王バチと幼虫そして大量のハチミツ。06年秋、北半球から4分の1のハチが消えた」と。巣箱からいなくなった働きバチは、どこかで大量死してしまったわけです。アメリカではミツバチが巣から突然いなくなる現象は、19世紀にも見られたし、60年代にはテキサス州など南部で大規模に発生したこともあり、特に珍しい現象ではありません。その後は、最近まで、失踪は限定的にとどまっていたそうです。しかし今回は「前例がないほど広域で起こっており、その影響も深刻だ」とし、「これまでと質的に違うようだ」と専門家は指摘しています。

ミツバチと果樹との共生関係

何か自然界に異変が起こっているのではないかという不安が強まっています。
「ミツバチといえば、ハチミツ」と私たちは連想しがちですが、ミツバチにはもう一つ、受粉活動という特別の行為があります。農業にとってはこの受粉活動の方がはるかに大きな意味を持っています。受粉とは雌しべの柱頭に雄しべの花粉を付着させる行為です。植物と動物の間には、長い進化の歴史を通して、共生の関係が成立しています。植物からミツを貰う代わりに、動物は受粉活動を通して、果実の成長を助けます。様々な昆虫がこの役割を担っていますが、ミツバチもそのひとつです。

08年のミツバチの数、前年比14%減も

イチゴやメロン、サクランボなどの受粉作業にはミツバチが使われています。そのミツバチが激減してしまい、受粉ができないと、果実は育たず、収穫ができなくなります。
アメリカでは、数年前からミツバチの大量死が問題になっていましたが、日本でも昨年頃からミツバチの減少が目立ってきました。農水省の08年夏の調査によると、ミツバチの数は、前年比14%も減少してしまいました。ミツバチは通常、女王バチ1匹と約1〜2万匹前後の働きバチなどが群れをつくっており、この一つの群れを「一群」と数えています。07年には、3万8592群存在していましたが、08年には5372群も減ってしまいました。


急騰するミツバチのレンタル価格、果樹農家は受粉を手作業で対応


そのあおりで、ミツバチのレンタル料金が急騰しています。たとえば、山梨県のサクランボ農家の場合、昨年のミツバチのレンタル料金(一箱当たり)は、7500円だったのが今年は1万2500円と7割近くも跳ね上がってしまったそうです。最近ではさらに2万円前後まで上昇しているようです。ミツバチの減少、それに伴うレンタル料金の値上げなどに対応するため、果樹農家は手作業で受粉作業をするなど対策に苦慮しています。
東京・世田谷区では、ナスやカボチャの受粉にもミツバチを使っていますが、今年3月には、ミツバチが巣箱ごと盗まれるなどの事件も起こっています。

この現象、CCD(蜂群崩壊症候群)と呼ぶ

アメリカでは、ミツバチがある日忽然と姿を消してしまう現象のことをCCD(Colony Collapse Disorder=蜂群崩壊症候群)と呼んでいます。アメリカでは、第二次世界大戦終了時の1945年頃には約600万箱あったミツバチの巣箱が05年には260万箱まで減少しており、このままでいくと、35年頃には、巣箱がなくなり、全米からミツバチがいなくなってしまう可能性があるとの予測もあります。

ミツバチ受粉の農作物、米国では150億ドルにも達する

アメリカでは、ミツバチが受粉を行っている農作物は年間150億ドル(約1兆5000億円)程度と見積もられていますが、ミツバチ不足によって数10億ドルの損害が見込まれています。このため、ミツバチ獲得競争も熾烈で、04年に巣箱一箱当たり50ドルだったものが、07年には150ドルと3倍に跳ね上がってしまったそうです。

CCDの原因は、まだ解明されていない

アメリカでは、なぜ、この数年CCDが突然、猛威を振るい始めたのでしょうか。はっきりした原因は今のところまだわかっていませんが、生息環境の破壊、寄生ダニの発生、農薬による中毒、伝染病、さらに受粉業務のための移動ストレスなど様々な要因が挙げられています。

移動養蜂によるストレス説も登場

このうち、アメリカ独特のミツバチの利用の仕方として、移動養蜂があります。花粉交配のためミツバチをトレーラーに乗せて、果樹農家の要請に応えて8000キロもの距離を移動する方法です。これを頻繁に行うため、さすがの働き蜂も働き過ぎでストレスが溜まってしまい、これがCCDの有力な要因になっているのではないかとの指摘もあります。
日本のサラリーマンにとっても、何か身につまされるような話ですね。

農水省、実態把握に乗り出す

アメリカほどではありませんが、日本でもこの1年ほどの間に、ミツバチの大量失踪が問題になっていることはすでに指摘したとおりです。農水省では、「寄生ダニや農薬で大量に死んだのではないか」と推測していますが、本当の原因はまだ不明です。石破茂農相は、四月の閣議後の記者会見で、「ミツバチの実態調査を全国規模で実施し、その結果を踏まえ対策を考える」と述べています。原因の解明はこれからですが基本的背景としては、人間活動が生態系を損ない、生態系が本来備えている自動調整メカニズムを壊し、ミツバチのストレスが高じてCCDが発生しているように思います。

2009年4月25日記

 
 
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