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手詰まり状態の汚染がれき処理

放射能汚染の広がりに危機感

 東京電力福島第一原発事故で飛散した放射能汚染の広がりが人々の不安を募らせています。野菜や水、原乳などに付着した放射性物質が、基準量を超えて人の体内に入れば、内部被ばくの恐れがあります。高濃度の放射性セシウムに汚染された福島産肉牛が一部で検出され、その牛肉が出荷停止処分になったニュースを見て、「毎日の食料は大丈夫か」など食の安全に疑問を投げかける声も強まっています。

汚染土壌の処理に頭を抱える地元の小学校

 放射能汚染の問題は、食料だけではありません。汚染された大量のがれきや土壌も大きな問題になっています。被災地の小学校などでは、校庭の表土に付着した汚染物を取り除くため、表土の引きはがし作業に取り組むところもありますが、汚染された土壌をどこで処分したらよいかわからず、とりあえず校庭の隅に山積みにしているところが目立ちます。

汚染がれきの受け入れは困る

 今度の震災で発生した大量のがれきを処分するため、環境省は全国の自治体に受け入れを要請しました。この呼びかけに、42都道府県および572の市町村が受け入れを申し出ました。これに対し、受け入れ側の住民から、「放射性物質で汚染されたがれきの受け入れは困る」という反対意見が殺到しました。このため、環境省は、がれきの放射能濃度を実際に測定し、地元の理解を求めることにし、経済産業省原子力安全・保安院、地元自治体などと協力して現在測定を始めています。

地方自治体も汚染がれきの処理に手を焼く

 汚染がれき処理が難航しているのは、初めての事故のため処理に関する法律上の基準がなく、扱い方が定まっていないためです。被災地の自治体側も手を焼いています。住民から汚染がれきや土壌の処分についての問い合わせがきても対応ができません。環境省に問い合わせても「検討中」などの答えしか得られず、汚染がれきの処理はお手上げの状態で、遅れに遅れ、地元の復興工事の障害になっています。

議員立法で汚染がれき法が成立

 この反省から、民自公の超党派の議員が立ちあがり、議員立法として成立させたのが、「汚染がれき処理法」です。正式名は「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」という舌が回りそうな長い名称です。8月26日の参院本会議で可決成立しました。8月30日の公布とともに一部が実施され、残りを含め来年1月初めから完全実施されます。福島原発事故が原因の環境汚染に対処する初めての法律になります。

汚染レベルで、地域を区分

 法律の骨子ですが、放射能レベルの調査を実施し、@レベルが高い地域は「特別地域」として、国が責任を持って徐染作業に当たる、Aより汚染が軽い地域は「重点調査地域」として自治体が徐染し、自治体の要請があれば、国が代行する、B両地域の線引きは、現地調査などを経て環境省が定める、などとなっています。 また、除染作業に伴う費用については、国が財政上の措置をとるが、最終的な費用は電力会社(東京電力)が負担することも定めています。

違反者には5年以下の懲役か千万円以下の罰金、併科あり

 一方、汚染がれきや土壌については、みだりに投棄することや焼却することを禁じています。違反者に対しては5年以下の懲役、もしくは千万円以下の罰金に処するなども定めています。悪質な場合は、懲役プラス罰金の併科もあると記載されています。

区分けのための放射線量の濃度基準の決め方も未定

 汚染がれき処理法の成立によって、ようやく放射能で汚染された廃棄物の処理の手順や処分方法についての基準が決まりました。しかし、短期間にバタバタとつくられた法律だけに、荒削りな部分も多く、これから具体的に詰めなくてはならない部分が少なくありません。たとえば、放射能レベル調査によって、特別地域や重点調査地域の区分が必要になりますが、まだ調査は続行中で、具体的な区分の選別まで進んでいません。線引きをするためには、放射線量の濃度をどの水準にするかを決めなければなりませんが、専門家の意見は分かれており、一本化までには至っていません。

最終処分場をどこにつくるかでも意見が対立

 さらに、頭が痛い問題は、最終処分先の選定です。環境省は、福島県内に最終処分場をつくりたい意向で、菅直人前首相も8月下旬、福島県の佐藤雄平知事を訪ね同様の要請をしましたが、猛反発を受けました。苦肉の策として、「最終処分場」ではなく、「中間貯蔵施設」とすることで、政府は福島県の合意を得たいと調整中ですが、県側の抵抗は大きく、最終処分場をどこにつくるかは、まだ宙に浮いたままです。

 完全実施まで残された時間はあまりありませんが、この間に残された課題をすべて解決できるのか気になります。

2011年9月7日記

 
 
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