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省エネ型産業構造への転換迫る節電革命

電力使用制限令発動

 政府は今夏、電気事業法に基づく「電力使用制限令」を発動しました。具体的には、今夏の最大電力は家庭も含め、昨年夏よりも東京電力および東北電力管内で15%削減(節電)することを求めるものでした。故意に違反すると100万円以下の罰金が科せられます。東電では今夏の電力需要に対して供給が約600万kw不足すると推定し、不足分は15%の節電で調整する計画を考えていました。

20%を超える節電に成功

 政府は9月9日、予定よりも早く制限令を解除しました。当初計画よりも節電効果が大きかったため秋以降、電力不足は回避できると判断したためです。資源エネルギー庁の資料によると、7月、8月の2カ月間の平日の電力消費量は昨年同月比で東京電力管内21・9%、東北電力管内21・3%、それぞれ削減できました。

原発10基分を節約で浮かした計算

 東電では、節電によって約1000万kw分の電力を削減できたと推定しています。原子力発電の平均出力を約100万kwとすると、節電によって、10基分の原発が不用になったことになります。まさに節電革命と呼べるような効果です。これだけの節電を達成した国は、過去に例がなく世界で初めてのケースと言えるでしょう。もちろん、これを達成するためには、企業や家庭の並々ならぬ努力がありました。特に制限令の直接対象になる企業(契約電力500kw以上)の取り組みには目を見張るものがありました。

自動車は土日操業、鉄道各社は運行本数減らす

 トヨタ、日産、ホンダなどの自動車メーカーは、電力需要が少ない土日操業を決め、木金を休日にする大胆な操業変更を実施しました。首都圏の鉄道各社は、電力需要がピークになる平日の正午12時〜午後3時に間引き運転を実施しました。JR東日本では山手線の5%減など各線の運行本数を減らしました。地下鉄の東京メトロも20%運行を減らしました。東急、小田急、京王、西武などの私鉄各社も、始発列車の時間を早め早朝列車の増発、日中の特急本数を半減するなど様々な取り組みを実施しました。さらに駅構内のエスカレーターやエレベーターの運転停止、車内や駅構内の照明半減、LED照明への切り替えにも積極的に取り組みました。

多くの企業が夏時間採用に踏み切る

 会社の始業・終業時間を1時間早める夏時間(サマータイム)の採用も増えました。ソニーやキヤノン、キリン、味の素、武田薬品など多くの企業が夏時間を採用することで、節電を心がけました。自動販売機業界も節電対策に知恵を絞りました。午前中から午後1時まで電力需要の少ない時に集中的に強く冷やし、電力消費がピークを迎える午後1時〜4時まで冷却機能を停止させるなどの対策を実施しました。

家庭もクーラーの温度を高めに設定

 一方、家庭も15%削減に果敢に取り組みました。家庭の電力需要は毎年増加してきた。電気事業連合会の調べだと、全国の電力需要の34%を家庭が占めています。家庭で使う電力使用量の約4割がエアコンと冷蔵庫です。各家庭では、家庭の電力消費を抑制するため、クーラーの温度を高めに設定、冷蔵庫の効率的な利用の仕方などに知恵を絞りました。小学校などではゴーヤなどツル性植物を使って緑のカーテンをつくるところも目立ちました。節電革命はこうして成功しました。

元の状態には戻れない

 ところが、制限令が解除されると、産業界からさっそく批判の声があがりました。「今度の節電で、企業は最大限の努力をした。このような制限令が、年間を通して実施されれば、やっていけなくなる企業が続出する」と。それはその通りかもしれません。しかし、原発事故で、電力の供給事情は大きく変わってしまいました。事故以前のように需要の拡大に合わせて供給を増やすことが出来なくなってしまったのです。だから、「3.11」以前の状態に戻ることはもはや不可能なのです。

電力供給不足が日常化してくる

 今後、原発の利用は先細りせざるをえません。厳しいストレステストで安全性をパスした原発の再稼働は可能ですが、寿命がきた原子炉は更新せず、廃炉にする方向です。中長期的にみて、原発による電力供給は現在よりも大幅に減少するでしょう。原発の代わりに火力発電で賄うことは理屈上可能ですが、その場合は地球温暖化問題を引き起こすため現実には簡単にはいきません。切り札である再生可能エネルギーも、中長期的視点に立てば大きな期待が持てますが、当面の供給力不足を補うほど育っていません。

需要抑制で需給バランスをとる時代へ

 今後5年程の近未来を想定すると、日本は否応なく電力不足時代を迎えざるを得ません。供給拡大が難しいということになれば、需要を抑制することで、需給を調整しなければなりません。そのために節電が大きな効果を持つことは今夏の経験で実証されました。具体的には、今夏2カ月間実施した15%程度の節電を通年ベースで実施していかないと、電力の受給バランスは壊れ、最悪の場合、計画停電に追い込まれる恐れがあります。今冬も、暖房などの需要が増えるので、節電しないと供給不足に陥ります。

電力多消費企業は厳しい選択を迫られる

 だから、これからは、15%程度の節電に耐えられない企業は、事業を継続していくことが難しくなることを覚悟しなくてはならないでしょう。工場を海外に移転させる、15%程度の節電に耐えられるような省エネ投資をする、廃業する、などいずれにしても、厳しい選択を迫られることになります。何もせず、待っていれば元の状態に戻れるなどといった甘い期待は禁物です。

エネルギー多消費型産業構造を転換させるチャンス

 電力多消費型企業にとっては、これから厳しい冬の時代がやってくるでしょう。だが、それは、日本経済全体としてみれば、むしろ歓迎すべきことといえるかもしれません。今の日本の産業構造は、明らかにエネルギー多消費型の産業構造になっています。リーマン・ショックが起こる前の2007年度の日本の経済成長率は、1・8%でしたが、温室効果ガスの排出量は2・8%も増加しました。一定の経済成長率を達成するためには、それ以上に化石燃料を大量に使ってCO2の排出量を増加させてしまうという好ましくない産業構造になっています。

スリムな産業構造をつくる

 今夏の節電で、前年よりも2割近く節電できたということは、逆にいえば、これまで電力多消費型の生活、経済活動を続けてきたことになります。これまで、電力の受給調整という場合、需要の増加に合わせて供給を増やしてきました。この方法だと、電力多消費型の産業構造はなかなか変わりません。しかし大幅な節電を長期間迫られることになると、電力多消費型企業はやっていけなくなります。代わって、節電、省エネに成功した企業が大きく伸びてくでしょう。

節電、省エネ企業を大きく育てる

 これからの日本は、あらゆる産業分野で、節電、省エネ型の企業を積極的に育ていくことが望まれます。そのためには、政策面からの後押しが必要です。新規参入企業を優遇するための税制改革、たとえば優遇的な減価償却制度の導入や法人税を5年間免除するなどのインセンティブ政策が求められます。節電、省エネ型の企業が増えれば、日本の産業構造も全体としてスリム化し、温暖化対策にも大きな貢献が期待できます。

2011年10月6記

 
 
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