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外来種による生物多様性の危機を考える

セイタカアワダチソウで黄色一色の世界に変わった福島の農地

 今秋、福島原発事故で放置された周辺農地は外来種のセイタカアワダチソウの花で黄色一色の世界に染まったそうです。特に耕作ができない日当たりの良い水田は、大きく生長したセイタカアワダチソウが我が物顔で黄色い花を咲かせ、過去と一変した風景に、地域住民は戸惑いを隠せなかったそうです。セイタカアワダチソウが繁茂し続ければ、やがて土地は痩せ、荒れ地になってしまいます。根から周囲の植物の生長を抑制する特殊の化学物質を出します。このため固有種のススキなどを駆逐して大繁殖しています。当然、地域の生態系に大きな影響を与え、生物多様性を壊す原因になります。

生物多様性は、複雑な生態系のバランスによって守られる

 生物多様性は、長い年月をかけて構築された複雑な生態系のバランスに守られています。何かの原因で、生態系のバランスの一部が壊れてしまうと生物多様性も大きな影響を受けます。政府は、昨年9月、「生物多様性国家戦略2012−2020」を閣議決定しました。サブタイトルは「豊かな自然共生社会実現に向けたロードマップ」です。これから20年までに生物多様性を保全するためにどのような対策(行動計画)が必要かをまとめたものです。

外来種は生物多様性を脅かす4つの危機のひとつ

 この国家戦略の中で、生物多様に影響を与える4つの危機が指摘されています。第一の危機は、人間による過度な開発、乱獲、第二は、里山里地の荒廃など、逆に人間の自然に対する働きかけの縮小による危機、そして第三が人間によって持ち込まれた外来種による危機です(ちなみに第四の危機は地球環境の変化による危機)。それでは、外来種とは、そもそもどのように定義をされているのでしょうか。先ほどの国家戦略では、「マングース、アライグマ、オオクチバス、オオハンゴンソウなど野生生物の本来の移動能力を超えて、人為によって意図的・非意図的に国外や国内の他の地域から導入された生物」とされています。

ペットブームで珍重される外来種の輸入が激増

 外来種が急増してきた背景には、この数年のペットブームがあげられます。珍しい外来種を手に入れて他人に見せ、得意になるペット愛好家も急増しています。昨年(11年)は、ハムスターなどの哺乳類(家畜を除く)が約24万頭、鳥類2万羽、カメなどの爬虫類約32万匹、昆虫類約4千万匹、観賞用の魚約4千万匹が輸入されました。この他、経済のグローバル化によって、人、物の出入りの急増に伴い、人、物に付着して、国内に入ってくる外来種も少なくありません。

外来種のブラックバスは日本の河川、湖に適応、生態系を壊している

 これらの外来種が何らかの理由で野外に持ち出された場合、多くの外来種は、持ち出された先の気候に合わなかったり、食べ物がなかったりして生息できません。だが、わずかとはいえ、一部の外来種は、環境に適応し、短期間に繁殖し、在来の生態系に深刻な影響を与えます。たとえば、外来種のブラックバスは、琵琶湖や霞ケ浦などの湖に適応、元々そこに生息している固有の魚を食べてしまうなどの問題が起こり、漁獲量の減少など地元の漁業関係者に深刻な打撃を与えています。

侵略的外来種を規制するため、特定外来生物法が2005年6月から施行

 このように外来種の中でも、在来の生態系に深刻な影響を与えるものを「侵略的外来種」と名付け、政府はその駆除のために、04年6月に「特定外来生物法」(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)を制定し、翌05年6月1日から施行しました。この法律は、海外から持ち込まれる生物の中で、日本の生態系や農林業、人の生活に悪影響を与える外来種を「特定外来種」に指定して、日本への持ち込みを禁止しています。05年6月の同法の施行に伴って、タイワンザル、セアカゴケグモ、ブラジルチドメグサなど37種類を第一次外来生物指定対象種に、また同年8月にはさらにウシガエル、コカミアリ、ボタンウキグサなど43種類を第二次外来生物指定対象種に選定しました。その後も指定対象を広げ、現在105種類になっています。同法によって、侵略的外来種の日本への持ち込みは、禁止することが可能になりました。

指定外来種の選定数が少な過ぎるとの批判も

 しかし、同法については、生態学者や環境NGOの間から、指定外来種の選定数が少な過ぎるという批判もあります。たとえば、ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)や外国産クワガタムシなどは指定されていません。生物多様性を守るためには、外来種は原則持ち込み禁止をするぐらいの厳しい措置が必要ではないか、という声もあります。さらに、同法で解決できない問題もあります。すでに国内で飼われている外来種を野外に放すことを禁止する具体的な規制はありません。さらに野外に持ち出され、定着している侵略的外来種を駆除するための予算は少なく、効果的な駆除対策ができません。このほか、国外から輸入される資材や他の生物に付着して意図せずに国内に持ち込まれる生物については無防備の状態です。

侵略的外来種を防ぐための予防対策の強化が必要

 とはいえ、日本の生態系に悪影響を与える侵略的外来種の駆除は腰を据えて取り組まなければなりません。国家戦略では@侵入を事前に防ぐための予防対策、A侵入の初期段階での発見と迅速な対応、B定着した外来種の長期的な防除、封じ込め対策などが必要だと指摘しています。

外来種の野生ペット持ち込みには、自己抑制の気持ちも大切

 この他、ペット愛好者の自己抑制も必要です。他人が持っていない珍種を手に入れて自慢したい気持ちもわかりますが、爬虫類などでよくみられるように、大きくなり過ぎて手に負えなくなると、野外の湖沼や川に捨て、それが自己増殖するケースもあります。植物などもタネが野外で繁殖し、地域の生態系を損ねるケースもあります。どうしても、外来種の野生ペットが欲しいという向きは、最後まで責任をもって管理する自覚が求められます。

2012年12月9日記

 
 
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